アドラー心理学を実践する
自分と他人は違う。そこから、自他尊重を実感する。一方で、自他の違いに悩む人も当然いる。アドラーが対人関係の悩みを強調するのは、自他の違いが厳然とした事実だからだろう。
カウンセラーにとってみれば、そのように考えないとやっていけないという、極めて現実的、実践的な認識だと思う。でなければ、クライアントとの関係はすぐに行き詰まってしまうことが想像できる。
例えば、うつ病の方の話を聴くセラピスト自身がまたうつ病を患った経験が必要なのかといえばそうではないだろう。むしろ、患者か求めるのは、そのセラピストが多くの患者を治癒させてきたという経験を重視するだろう。
自他の違いを受け入れることが、先ず、大事だ。そうした認識を保ち続けることがどこまでできるのか、アドラー心理学を実践していくことは、それが常に問われ続けることになることを覚悟しなければならない。
「嫌われる勇気」とは、岸見一郎さんのベストセラーのタイトルだが、自他の違いを受け入れることは、他人に嫌われることも潔く受け入れることにもなる。
嫌われることを良しとすること、それが「嫌われる勇気」では勿論ない。
嫌われるのは対人関係のなかでしか起こらない。対人関係の外では、他人は単に自分に無関心なだけだ。
勇気は、対人関係をもつ勇気ということなのだが、対人関係のなかで起きるのは嫌われることだけではない。ひとが対人関係を遠ざける理由は嫌われるといやだということもあるが、それだけではない。対人関係を持つか持たないかは、自分が決めることであり、その選択がそのひとのライフスタイルなのだ。
嫌われるというのは結果にすぎず、その結果は先ず対人関係に入っていかないとわからない。つまりは、嫌われるというのは、予断に過ぎない。認知行動療法でいう自動思考だろう。その自動思考はスキーマが排出している。しかし、スキーマは選択のネタを提供するものでもある。アドラー心理学でのライフスタイルは、認知行動療法でいうスキーマなのではないか?
人間の悩みはすべて対人関係の悩みだ。とはいえ、その悩みも対人関係のなかで癒やされる。すべては対人関係のなかで起きる。