倫理基準のまとめ
プロフェッショナルには倫理が求められるとして基準が定められていることが多い。
キャリアコンサルタントの場合、対人援助職としてのクライアントに配慮した基準が定められている。
他の対人援助職と比較してどうかというのは分からないが、警告義務、多重関係の禁止は明らかにカウンセラーを意識したものだと思われる。
FPにも守秘義務は求められるが、それを越えるものとして警告義務を掲げている。これは、例えば自殺念慮や、そこまでいかなくても強度のストレスを抱えるクライアントと面談することも配慮してのことだろう。
ただし、キャリアコンサルタントが臨床心理士のようにサイコセラピーを行うということではない。一方でキャリアコンサルタントにはその業務の範囲を超えてはいけない。
クライアントの状態によって他の専門家に委ねた方がよいと判断した場合に、適切な専門家をクライアントに紹介する。これをリファーというが、警告義務はこのリファーと切り離せない。とすると、キャリアコンサルタントにはリファーするための知識が求められるということだ。メンタルヘルスや労働法などの知識が必要になる。
もう一つ、カウンセラーっぽいなと思ったのは、多重関係の禁止。
カウンセリングは、一定の場所、限られた時間のなかで行われる。決めた場所以外、決めた時間以外、カウンセラーはクライアントとカウンセリングを行わないのが原則だとされる。これは、クライアントが安心して自己開示できるようにするための配慮である。
多重関係とは、カウンセラーが、クライアントとそうしたカウンセリング以外の関係を持つことをいう。例えば、上司、友人、配偶者、恋愛関係、金銭の貸し借りなど、カウンセリング関係以外の人間関係を持つことだ。
多重関係に入ると、それがカウンセリングにも影響し、クライアントが安心して自己開示できなくなる、あるいは、別の関係を慮って自己開示しなくなってしまう。そうなるとカウンセリングができなくなる。
カウンセラーに対しても、過剰なクライアントへの感情移入や自己の利益の優先につながるおそれがある。
退職を願い出た部下にマネジャーとしての立場とカウンセラーとしての立場では、その応答に違いがあると思う。マネジャーとしては貴重なリソースを失いたくはない、だが部下のキャリアを考えると退職したほうが部下のためにはよいと思われることがある。この場合、マネジャーの立場を優先することもあるだろう。業務の遂行を優先すればそれはおかしな判断ではない。ただ、カウンセラーとしての判断としては疑問に付されても仕方がないだろう。多重関係の禁止は、このようにキャリアコンサルタントがダブルバインド状態に陥るのを防ぐためのものでもある。
自己決定権の尊重について、クライアント自身のキャリアはクライアントが決めることであり、キャリアコンサルタントはそれを尊重しなければいけない、ということなのだが、一見とうぜんのことを言っているに過ぎない、と思ったが、よくよく考えてみると、結構、深いということに気づく。
クライアントは何を決定するのだろう?
そもそも決めるべきことをはっきりと意識しているのだろうか?
自身のキャリアがよくわからない、どうしていいのかわからない、だから相談に来るのではなかろうか?
とすると、キャリアコンサルタントはクライアントの何を尊重するのだろうか?