キャリアコンサルタント学習ノート

キャリアコンサルタントの学習記録

2年と半年のブログを振り返って

今週のお題「2019年の抱負」


お題拝借。


このブログを始めたのが、2016年7月で、それから2年半経ちました。

当初、キャリコンの勉強始めますから始まり、試験受験が終わってからは、思いつくまま、カウンセリングやアドラー心理学河合隼雄のことなどを書き続けてきました。

2019年は、更新の頻度を上げていきたい、と思っています。


「笑いの力」

年末、図書館で借りてきた「笑いの力」。

河合隼雄養老孟司筒井康隆という3人の笑いをテーマにする講演録。

河合隼雄にはこうした講演録がいくつか残されているが、この本も非常に面白かった。

養老孟司の劇場と教会、唯一神を笑うことは特に印象に残ったが、真っ赤な嘘とわかって楽しむ西洋人のくだりを読みつつ、「唯脳論」の著者であったことを思い出した。



笑いの力

笑いの力

「嫌われる勇気」を読む

あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。


さて、この年末年始に、「嫌われる勇気」を初めて読みました。

この本は、アドラー心理学関連の書籍ではおそらく、最も売れているものだと思いますが、今までは、言わば、食わず嫌いで読まずに来ました。

食わず嫌いの理由は、そのタイトルです。

嫌われる勇気という言葉に違和感が拭えないから。

アドラー心理学入門」を始め、岸見一郎氏のアドラー関連の書籍は何冊か読んではいて、これはアドラー心理学の解説書ではない、むしろ、岸見一郎氏本人の考えが強いという印象を持っていました。心理学というよりは哲学、あるいは思想としての側面に光を当てている以上に、それはアドラー自身の考えなのか、岸見一郎氏の考えなのかがよくわからないと感じていたのです。「嫌われる勇気」は、より岸見一郎氏の考えをアドラーの名の下に展開したものと思い、手を伸ばさずに来ました。


アドラーの思想の背景は、他の書籍でも指摘はされています。マルクスニーチェベルグソン、ファイヒンガーなど、アドラーも20世紀初頭の知識人であったことは理解できます。ただ、岸見氏がソクラテスプラトンなどのギリシャ哲学とアドラーを思想面で結びつけるのは、正直ついていけなかったのです。一方、海外の文献に目を向けると、アドラー心理学は共同採掘場という言葉を超えて、ポジティブ心理学や社会構成主義との関連性に着目する研究が進んでいます。日本でも共同体感覚の尺度やビッグファイブとの関連性について研究が進められています。今後、現代心理学とアドラー心理学との実証研究はさらに進んでいくことが期待できます。特に、キャリアカウンセリングでは、サビカスに代表されるように、アドラー心理学の重みはより増してくると期待できます。


食わず嫌いから抜け出し、今回、「嫌われる勇気」を読んでみると、予想していたよりも、違和感をあまり感じませんでした。岸見氏流の考えは確かに散見されはするものの、まったく受け入れられないというほどの内容ではありませんでした。よく取りざたされる課題の分離もそんなには気にはなりませんでした。ここでは課題の分離はシンプルに、自立を説明するための概念であって、自由に重みを置いているために強調されているにすぎません。あなたはあなた、わたしはわたしというのはゲシュタルト療法では特に強調される言葉ですが、カウンセリングでの共感を支えるものです。「嫌われる勇気」の中でも、「他人の耳で聴き、他人の目で見て、他人と同じように感じる」を引用しつつ、課題の分離について説明しています。しかし、先だって持っていた、これはアドラー心理学ではなく、アドラー心理学を使って岸見氏自身の考えを表現したものだという印象は変わりませんでした。なにが岸見氏の考えで、それはアドラーとどう違うのかを細かく書けるほどの余力はありません。ただ、これは一方の共著の尽力だと思いますが、哲人と青年との対話という形式は、岸見哲学そのものではないかと思います。論破する、それはアドラーそのひとの著作から浮かび上がってくるものではありません。この対話そのものの目的は何かを考えたとき、つまり、哲人と青年との共有目標は何かを考えたとき、結局、哲人は青年を言いくるめているだけではないかという気がします。

確かに、哲人が話していることはアドラー心理学の説明ではあるものの、青年が腹落ちしているようにはあまり感じられません。青年は言い負かされる自分を認めているだけのような印象を持ちます。確かに、この本はカウンセリング、心理療法についての本ではありません。しかし、誤解を生みやすいとは思います。アドラー心理学は論破するとかされないとかというものではありません。

フロイトユングアドラーの心理学は反証可能性を認めない、だから厳密に科学ではないと言われることがありますが、むしろ、臨床心理学は常にクライアントとの面談でその実証を問われているのではないかと感じます。河合隼雄ユングの分析心理学は、「理論の精密さや明確さを誇りとするよりは、実際場面に役立つことを第一と考える心理学を探し求めようとする試み」だと言っています。これはユングのみならず、アドラー心理学にも当てはまるのではないか、さらに臨床心理学全体に言えることではないかと思います。役立つか役立たないかは、論破する、論破されないとは関係ありません。論破されないから役立たないとは言えないからです。


アドラー心理学の入門書は、他にも、コミックも含め、種々様々あり、著者によって微妙に表現や内容も異なります。また、子育てやマネージメント、男女関係などのテーマの本もあって、今や日本でアドラー心理学は非常に間口が広いです。そのなかでは、やはり、「嫌われる勇気」は特異な入門書です。これほど哲学臭がするのにもかかわらず、アドラー心理学関連の書籍で1番売れているのは謎です。逆に、哲学臭いからこそ、売れているのかもしれません。ニーチェなどの超訳本も売れてたし。

嫌われる勇気―――自己啓発の源流「アドラー」の教え

嫌われる勇気―――自己啓発の源流「アドラー」の教え



キャリアを支えるアドラー心理学

アドラー心理学について立て続けに専門書を読むと、100年ほど前、オーストリアの心理学者によって創始された学問というよりは、今だに未開拓で発展途上にある学問だという気がしてきます。
というのも、いずれの本にしても、ポジティブ心理学や社会構成主義アドラー心理学の比較や関連に言及しており、その言及もアドラーを源流とするのではなく、まさに現代のビビッドな問題にポジティブ心理学や社会構成主義と同様、アドラー心理学が応えうるものとして提示されているからです。単に、源流であるだけなら、無理にそこに遡る必要はないのです。心理学の生みの親、ヴントは、名前は有名ではあるけれど、書店には一冊も並んでいません。その点で、アドラー心理学は現代に生き続けている心理学です。

アドラー心理学は一人ひとりが各々のダイナミックな成長を目指すことを支援する心理学です。アドラー心理学の実践者は、共同体感覚の育成を目的にクライアントを支援します。共同体感覚は、不完全な自分を受け入れ、他者を気遣い、自分の居場所を作って、社会へ貢献することで養われていきます。
アドラー心理学では、クライアントを病人とは捉えません。勇気が挫かれたひと、共同体感覚が低い状態のひとと捉えます。病人も健康なひとも、共同体感覚という同一の枠組みによってアプローチしていきます。精神的な不調や疾患、生きづらさ、日常生活上の悩みや困りごとなど、ひとが抱える悩みは対人関係によるものだとアドラーは喝破しています。クライアントを取り巻く人間関係の健全さはクライアントの共同体感覚によって調査され、評価されます。クライアントの生き方、ライフスタイルがどれくらい共同体感覚を持つものなのかを調べていくのです。クライアントのライフスタイルを知るためには、クライアントが語ることだけではなく、身ぶりや動作、感情など、そのひとの在り様全体に目を向けます。そのひとの語りだけではなく、心理学者は行間を読むことにも長けていなくてはならないとアドラーは注意しています。こうして心理学者はクライアントの目的と生き方を理解していき、その理解をクライアントに確認します。しかし、それはクライアント自身も気づいていない、理解していないこともありえます。心理学者は常に自分が理解したことをクライアントが聞き入れられるタイミングでそれを伝えるようにする必要があります。また、表現の仕方にも配慮しなくてはいけません。心理学者はいつもクライアントを勇気づけすることを心がけて、勇気を挫くようなことはしてはならないのです。
アドラー心理学では仕事、交友、愛という、生きる上で重要な3つのタスクを設定しています。これらのタスクに向き合うとき、ひとは自分のライフスタイルを露呈します。それらのタスクが乗り越え難いものとして立ちふさがり、にっちもさっちもいかなくなることがありえます。このとき、心理学者はクライアントのライフスタイルをより共同体感覚の高い状態へ変えていくことを目指します。
仕事のタスクは、キャリア支援に直結します。ただ、このタスクは、交友や愛といった他のタスクとも深く関連します。キャリア支援において、アドラー心理学はキャリア上の問題にとどまらず、クライアントのライフスタイル、総体としての個人という見方を与えてくれます。
キャリア支援において、ひとと仕事とのマッチングがパーソンズ以来の中核的な役割であったとしても、現代ではひとと仕事との関係は一次関数的な、直線的に把握し難いものであり、ひとも仕事も、それらを取り巻く環境や文脈との関係を見過ごすことができません。アドラー心理学はキャリア支援者に対しても、現代の複雑さへの対処について示唆してくれるものだと思います。


Adlerian Psychotherapy (Theories of Psychotherapy Series®) (English Edition)

Adlerian Psychotherapy (Theories of Psychotherapy Series®) (English Edition)

アドラーに学ぶ対人関係の理論と技法

アドラーは、フロイトユングとよく比較されますが、一番大きな違いは日常の言葉で、自分の心理学を語ったことではないかと思います。フロイトのイド、ユングのアニマといった表現をアドラーはしませんでした。もちろん、アドラー心理学にも特有の用語はあります。が、それはギリシャ語など普段使わない言語から転用するようなことをアドラーはしなかったのです。これは、精神科医、心理学者、教育者としてのアドラーを理解するためには決定的に大事なことだと思います。相手は誰か、個人心理学を学ぶ相手への配慮、アドラーが普段使ってる言葉で語っているのほそのためではないかと。

アドラーの言葉からは、いつも、共感を伝えようとする姿勢が感じられます。日本語だとそのあたりのニュアンスが伝わりにくいのですが、英訳だと非常にシンプルな言葉で語っていたことがわかります。

これはもちろん、アドラー心理学の中核概念である共同体感覚につながっています。

共同体感覚についてアドラーはいろいろな言葉で語っていますが、私はシンプルに、幸福な対人関係のことだと受け取っています。自分が自分らしさを感じつつ、他者と信頼関係でつながっている、それが幸福な対人関係ではないか、そう考えます。人間は社会の中でしか生きていくことができません。完全に自分一人で生きていくことは想像を絶するほど困難です。道を歩くことから私たちは他者の仕事の恩恵を受けています。私たちの生活は、すでにさまざまな人々の仕事の成果で成り立っています。幾重にも錯綜し重なり合う人間関係の網目の中で、私たちは生活しています。一方で、この人間関係の網目は不幸の苗床とも言えます。人間の悩みは対人関係の悩みだとアドラーは指摘します。しかし、そこに幸福を見るのか、不幸を見るのかは、実は自分次第なのです。言わば、対人関係を幸福にするのも不幸にするのも自分の見方や行動次第なのです。そして、見方や行動は変えることができる。アドラー心理学は、不幸な物の見方や行動を幸福を産み出す見方、行動に変えるための理論であり、かつ、技法です。


アドラー心理学はキャリアコンサルティングにも大いに役立ちます。実際、サビカスはアドラー心理学の早期回想という技法を応用しています。というのも、アドラー心理学は元々生き方そのものを対象としているからです。職業紹介・指導だけでなく、生活全般、生き方そのものへとキャリアコンサルティングの活動は広がって来ています。アドラー心理学を取り入れることで、キャリアコンサルタントにはクライアントの職業領域にとどまらない領域にまで踏み込むことになります。

キャリアカウンセラーの関わりとは?

キャリアカウンセリング: 積極的関わりによる新たな展開

キャリアカウンセリング: 積極的関わりによる新たな展開


最近、キャリアカウンセリングについて、どうも誤解していたような気がします。
カウンセリングや心理療法といった臨床心理学とキャリアカウンセリングをごっちゃにしていたところがあったのではないか?
どうもキャリアカウンセラーをサイコセラピストと重ねて、同じようなイメージで捉えてきたのではないか。

この本を読むと、そのモヤモヤした理解の浅さが緩和され、そこに描かれたキャリアカウンセラーのイメージがすっきりと腹落ちしました。


キャリアコンサルティングにおけるキャリアカウンセリング

キャリアコンサルティング 理論と実際 4訂版

キャリアコンサルティング 理論と実際 4訂版

木村周、『キャリアコンサルティング 理論と実際』を昨日、読んでいて、キャリアコンサルティングがキャリアカウンセリング、キャリアガイダンス、キャリア教育を包括する概念であることを再確認。また、サビカスがキャリア支援として掲示している内容とも一致することを確認。

歴史的に職業指導からキャリア支援へと、この100年の間に変化してくる中で、働くということへの関わりは、指導から支援へ、職業生活から生きることそのものへ、より広がってきた。ガイダンスにカウンセリング、教育まで加わり、キャリア支援=キャリアコンサルティングという概念的な拡張も、実際に、学校教育における進路指導という言葉の意味の変化、就労支援の多様化、能力開発などの生涯通じた視点への移行を見据えたものだ。


この本で、木村がキャリアカウンセリングを包括的・統合的アプローチであることを強調していること、それを踏まえてシステマティックアプローチについて詳しく述べていることにあらためて注目しておきたい。これもキャリアコンサルティングの概念に基づく主張だと思う。

キャリアコンサルティングは、自己理解から職業理解、目標設定、啓発的体験、意思決定といったプロセスを踏むが、このプロセス自体、システマティックアプローチそのものだ。キャリア支援はクライアントの自己概念の成長を目指すものだと考えるが、その成長は行動変容まで結びつかなければ意味がない。