キャリアコンサルタント学習ノート

キャリアコンサルタントの学習記録

「嫌われる勇気」を読む

あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。


さて、この年末年始に、「嫌われる勇気」を初めて読みました。

この本は、アドラー心理学関連の書籍ではおそらく、最も売れているものだと思いますが、今までは、言わば、食わず嫌いで読まずに来ました。

食わず嫌いの理由は、そのタイトルです。

嫌われる勇気という言葉に違和感が拭えないから。

アドラー心理学入門」を始め、岸見一郎氏のアドラー関連の書籍は何冊か読んではいて、これはアドラー心理学の解説書ではない、むしろ、岸見一郎氏本人の考えが強いという印象を持っていました。心理学というよりは哲学、あるいは思想としての側面に光を当てている以上に、それはアドラー自身の考えなのか、岸見一郎氏の考えなのかがよくわからないと感じていたのです。「嫌われる勇気」は、より岸見一郎氏の考えをアドラーの名の下に展開したものと思い、手を伸ばさずに来ました。


アドラーの思想の背景は、他の書籍でも指摘はされています。マルクスニーチェベルグソン、ファイヒンガーなど、アドラーも20世紀初頭の知識人であったことは理解できます。ただ、岸見氏がソクラテスプラトンなどのギリシャ哲学とアドラーを思想面で結びつけるのは、正直ついていけなかったのです。一方、海外の文献に目を向けると、アドラー心理学は共同採掘場という言葉を超えて、ポジティブ心理学や社会構成主義との関連性に着目する研究が進んでいます。日本でも共同体感覚の尺度やビッグファイブとの関連性について研究が進められています。今後、現代心理学とアドラー心理学との実証研究はさらに進んでいくことが期待できます。特に、キャリアカウンセリングでは、サビカスに代表されるように、アドラー心理学の重みはより増してくると期待できます。


食わず嫌いから抜け出し、今回、「嫌われる勇気」を読んでみると、予想していたよりも、違和感をあまり感じませんでした。岸見氏流の考えは確かに散見されはするものの、まったく受け入れられないというほどの内容ではありませんでした。よく取りざたされる課題の分離もそんなには気にはなりませんでした。ここでは課題の分離はシンプルに、自立を説明するための概念であって、自由に重みを置いているために強調されているにすぎません。あなたはあなた、わたしはわたしというのはゲシュタルト療法では特に強調される言葉ですが、カウンセリングでの共感を支えるものです。「嫌われる勇気」の中でも、「他人の耳で聴き、他人の目で見て、他人と同じように感じる」を引用しつつ、課題の分離について説明しています。しかし、先だって持っていた、これはアドラー心理学ではなく、アドラー心理学を使って岸見氏自身の考えを表現したものだという印象は変わりませんでした。なにが岸見氏の考えで、それはアドラーとどう違うのかを細かく書けるほどの余力はありません。ただ、これは一方の共著の尽力だと思いますが、哲人と青年との対話という形式は、岸見哲学そのものではないかと思います。論破する、それはアドラーそのひとの著作から浮かび上がってくるものではありません。この対話そのものの目的は何かを考えたとき、つまり、哲人と青年との共有目標は何かを考えたとき、結局、哲人は青年を言いくるめているだけではないかという気がします。

確かに、哲人が話していることはアドラー心理学の説明ではあるものの、青年が腹落ちしているようにはあまり感じられません。青年は言い負かされる自分を認めているだけのような印象を持ちます。確かに、この本はカウンセリング、心理療法についての本ではありません。しかし、誤解を生みやすいとは思います。アドラー心理学は論破するとかされないとかというものではありません。

フロイトユングアドラーの心理学は反証可能性を認めない、だから厳密に科学ではないと言われることがありますが、むしろ、臨床心理学は常にクライアントとの面談でその実証を問われているのではないかと感じます。河合隼雄ユングの分析心理学は、「理論の精密さや明確さを誇りとするよりは、実際場面に役立つことを第一と考える心理学を探し求めようとする試み」だと言っています。これはユングのみならず、アドラー心理学にも当てはまるのではないか、さらに臨床心理学全体に言えることではないかと思います。役立つか役立たないかは、論破する、論破されないとは関係ありません。論破されないから役立たないとは言えないからです。


アドラー心理学の入門書は、他にも、コミックも含め、種々様々あり、著者によって微妙に表現や内容も異なります。また、子育てやマネージメント、男女関係などのテーマの本もあって、今や日本でアドラー心理学は非常に間口が広いです。そのなかでは、やはり、「嫌われる勇気」は特異な入門書です。これほど哲学臭がするのにもかかわらず、アドラー心理学関連の書籍で1番売れているのは謎です。逆に、哲学臭いからこそ、売れているのかもしれません。ニーチェなどの超訳本も売れてたし。

嫌われる勇気―――自己啓発の源流「アドラー」の教え

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